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株式譲渡の問題点

(1)株券発行会社か否か

対象会社が株券発行会社の非上場会社である場合、過去の株式譲渡において株券の交付がなされていなかったという事実が発覚することが、往々にして見られます。

これは、非常に重要な事項であるにもかかわらず、あまり知られていないことなのですが、株券発行会社では株式の譲渡に際して株券の交付が必要となります。そして、株券の交付が伴わない場合には、株式譲渡の効果が発生しないことになります(株券不発行会社は、当事者間の意思表示によって、株式譲渡の効果が生じます)。

会社法

第百二十八条 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。

ちなみに、株券発行会社であるか否かは、登記簿に記載されています(会社法911条3項10号)。会社法では、原則が株券不発行会社であるため、株券発行会社である旨の記載がない会社は、株券不発行会社となります。

なお、会社法施行前は、株券発行会社が原則であり、逆に株券不発行会社である場合は、その旨が登記簿に記載されていました。そして、会社法施行前から設立している会社については、株券不発行会社である旨の登記がされてある会社を除き、会社法施行時に法務局の職権で、株券発行会社である旨の登記がされています。このように、会社法施行前では、株券発行会社が原則的形態であったため、その当時に設立した会社は、株券発行会社である可能性が高いといえます。

そこで、まずは過去に遡って登記簿謄本を取得し、対象会社が株券発行会社であった時期がないか確認する必要があります。その一方で、原始定款から現在の株主名簿に至るまでの間の株式譲渡の時期と内容を把握する必要があります。とはいえ、非上場会社では、原始定款を紛失している場合や、株式譲渡の過程が口約束でなされているケースも多々見られます。また、株主名簿が適切に保管されていないケースも、むしろ一般的といえます。

このようにして把握した結果、株券発行会社であるにもかかわらず、株券の交付が伴わない株式譲渡がなされている事実が発覚した場合、その株式譲渡について後発的に対処する必要があります。

(2)無効な株式譲渡の対処

法務デュー・デリジェンスの結果、過去の株式譲渡について株券の交付がなされていない無効な株式譲渡が発覚した場合、どのように対処すべきでしょうか。

①原則的治癒方法

多くの株券発行会社は、一度も株券を発行したことがないことが一般的です。そのため、過去の株式譲渡について株券の交付がない場合の大半は、そもそも株券を発行する作業から行わなければなりません。株券には法定の様式が存在するため、発行する際には弁護士等に依頼した方が良いでしょう。その上で、過去に遡って無効と考えられる株式譲渡について、全て株券の交付とともに移転されたことを当事者間で署名押印付の書面を締結し、明らかにする必要があります。なお、株券の交付については、現実に交付することまでは必要なく、占有改定などの手法を用いて書面上で交付がなされたことを確認することで足ります。

もっとも、現時点において調査しても過去の株式譲受人が行方不明となっており署名押印を取得できない場合や、株主に相続が発生しており、全国各地に相続人たる株主が点在してしまっているという場合も存在します。このような場合であっても、可能な限り署名押印を取得し、過去の無効とされた株式譲渡を治癒していく必要があります。

②解釈による治癒方法

会社が株券の発行を不当に遅滞した場合には、株券発行前に行われた株券交付を伴わない株式譲渡についても、会社との関係では有効とする判例が存在します(最高裁判決昭和47年11月8日)。この判例理論を随所に適用して、株券交付が伴わなかった株式譲渡につき、有効であるとの解釈を行うことも理論上は可能です。

もっとも、実際に問題となっている対象会社の株式譲渡が、判例が示す「株券の発行を不当に遅滞」した場合に当たるのかという点は判然としません。そして、当該判例も指摘しているところですが、安易に株券交付を伴わない株式譲渡を有効とすることは、株主の地位に関する法律関係を不明確かつ不安定にするため、この判例理論は制限的に用いるべきです。従って、安易に当該判例理論を用いて、過去の株式譲渡が治癒されたと理解すべきではありません。

③契約上の補完方法

以上のように、株券交付を伴わない株式譲渡が認められ、後発的な株券交付でも、判例理論に基づく解釈上でも対処できない株式譲渡が存在する場合、どのように対応すべきでしょうか。

まず、当該株式移転がなされていない株式は、売主が保有していないことから購入することができないので、これを購入対象から除外するという方法が考えられます。これは、もっとも端的な解決方法ではあるのですが、買主としては100%の株式を取得できない状態となること、売主としては当初合意されていた買収価格が割合的に減額されるおそれがあることなどから、あまり好まれる解決方法ではありません。

これとは異なり、M&Aの買収契約書の中で、売主が対象会社の株式を100%保有していることを表明保証し、万が一この表明保証に反する事実が判明した場合には、直ちに過去の株式譲渡の瑕疵を治癒することや、賠償請求に応じることなどを別途定めるという解決方法も考えられます。

その他、買収契約書の中で、将来買主が購入した株式について、所有権その他の権利を主張する第三者が現れた場合には、当該株主に対処する費用及び責任を売主に課するという約定を入れる解決方法も考えられます。

(3)その他の問題点

ちなみに、株式譲渡を株券発行及び署名押印の取得等により後発的に治癒した場合であっても、株式譲渡の効果は過去に遡って認められる訳ではありません。つまり、一度も株券を発行していない会社が、M&A実施時に株券を発行して過去から現在に至るまでの株式譲渡を治癒した場合、当該治癒を行うまでの株主は、原始定款に記載されている株主だったということになります。そのため、過去に無効な株式譲渡を前提として行われた株主総会などは、全て有効性に問題があるということになりかねません。従って、過去に遡り、仮に特定の株主総会が無効とされた場合に、重大な問題が生じないかという点について、十分検討する必要があるといえます。その上で、無効とされた場合に問題がある株主総会が存在する場合には、当該株主総会の治癒ということも問題となります。

(4)結論

株式譲渡を行う場合の売買対象は株式となります。しかし、誰がどれだけの株式を有しているかは、簡単に判断できるものではありません。また、上記のように法務デュー・デリジェンスを行って初めて、過去の株式譲渡が無効であったと発覚するケースもしばしば見られます。そのため、株式を購入したと考えていたものの、実際には何も購入していなかったという結論に陥るケースも稀ではありません。

このように、売買対象物という最も基本的な事柄であるにもかかわらず、多くのケースで問題が生じうるという点について、十分留意する必要があります。特に、買収を考えている対象会社が会社法施行以前に設立された歴史のある会社である場合には、過去の株式譲渡について入念な法務デュー・デリジェンスを実施する必要があると考えます。

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