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インカム・アプローチの基礎知識

(1)DCF方式

①評価手法の概要

DCF方式は、Discounted Cash Flow Methodの頭文字をとったもので、直訳すると割引キャッシュ・フロー方式ということになります。現代のファイナンス理論における主流的な考え方として、ある資産の価値は、その資産が将来にわたって生み出すキャッシュ・フローの割引現在価値と等しいという考え方があるのですが、この考え方をそのまま評価手法にしたのがDCF方式です。つまり、対象企業がその事業を通じて将来にわたって生み出すと予想されるキャッシュ・フローを割り引いた後の現在価値をもって事業価値と考える評価手法であり、算出される価値は事業価値となりますので、株主価値を算出するには、ここに非事業資産や有利子負債などを調整する必要があります。

この評価手法の特徴は、なんと言っても、達成できるかどうか現時点では誰にもわからない将来事業計画を拠り所として、価値の評価を行うという点につきます。そういった意味では、極めて危なっかしい評価手法ではあるのですが、実際には現代における価値算定手法の代表選手として、様々な局面で用いられている最もメジャーな方法と言っても差し支えありませんので、M&Aプロジェクトに関わる方であれば、必ずどういった評価手法なのか、その概要と特徴、そして注意点を知っておく必要があります。

②将来事業計画の合理性

DCF方式による事業価値評価の第一歩は、複数年の将来事業計画に基づいて各年度のフリー・キャッシュ・フローを算出することです。何年分の計画を用いるかはケースバイケースですが、通常は3年~5年分の計画をもとに評価を行うことが多いといえます。5年も先の計画なんて本当に作れるのか?という疑問をお持ちの方も多いと思いますが、実際には5年先の計画まで厳密に作り込むということはありません。厳密に策定するのはどんなに長くても3年分です。場合によっては、厳密に策定するのはあくまでも1年分の計画だけで、あとはその数字に一定の成長率などを見込むことで複数年の計画とするようなケースもしばしばあります。

③フリー・キャッシュ・フローの算定

適切な事業計画であることが確認できたら、次は各年度のフリー・キャッシュ・フローを算定します。フリー・キャッシュ・フローというのは、営業活動によって稼ぎ出したキャッシュ・フローから、事業活動において必要となる設備投資支出を差し引いたキャッシュ・フローであり、事業価値の源泉となるものです。通常、事業計画は損益ベースで策定されていますから、損益ベースの事業計画をもとに、キャッシュ・フローへの転換を行うためのいくつかの調整が必要となります。一般的に、フリー・キャッシュ・フローは次のような手順で算定されます。

フリー・キャッシュ・フロー

それぞれについて、簡単に説明しておきます。スタートとなるのは本業で稼ぎ出した営業利益です。しかし、企業活動を行う以上は必ず税金がかかってきますので、これを税引後で考えます。これが税引後営業利益(NOPAT:Net Operating Profit After tax)と呼ばれるもので、営業利益×(1-税率)によって算出され、フリー・キャッシュ・フロー計算の基礎となります。

この段階では、まだ損益ベースの概念となりますので、これを次に税引後営業キャッシュ・フローに転換するための調整を2つほど施します。1つが減価償却費の加算です。減価償却費は支出を伴わない費用ですので、これを足し戻すことによって、利益ベースからキャッシュ・フロー・ベースに調整を行うことができるのです。そして、もう1つが運転資本増減の調整です。たとえば売上高が増加したとしても、すぐにはキャッシュ・フローは増加しません。なぜなら、現金商売でない限り、売上高を計上したとしても、いったんは売掛金が増加するだけであり、キャッシュが入ってくるのは売掛金を回収してからになるためです。ですから、通常は売上高や利益が計上されるタイミングよりも、キャッシュ・フローが増加するタイミングは遅れがちになるものです。こういった利益ベースとキャッシュ・フロー・ベースの差は、具体的には売掛金、在庫、買掛金となって貸借対照表に反映されることになりますが、売掛金+在庫-買掛金のことを運転資本と呼びます。この運転資本が大きければ大きいほど、また増えれば増えるほど、利益よりもキャッシュ・インが遅れがちになるため、この運転資本の増減による影響を調整することで、利益ベースの金額からキャッシュ・フロー・ベースの金額に転換することができるのです。

そして、最後に予想される設備投資支出額を控除して、フリー・キャッシュ・フローの算定が完了します。

④割引率の決定

各年度のフリー・キャッシュ・フローを算定したら、いよいよ割引計算を行うのですが、ここで何パーセントで割り引くのかが問題となります。少々難しい話になりますが、何パーセントで割り引くか、つまり割引率を決定する要素としては、貨幣の時間価値とリスクプレミアムの2つがあります。貨幣の時間価値は単純に時間が経過することで生じる利息分を見込むという意味合いです。一方で、リスクプレミアムというのは、将来事業計画を用いることによる不確実性に関するリスクをどの程度織り込むのかという話であり、通常は割引率にリスク分を上乗せすることで調整することになります。ここで知っておいて欲しいことは2つです。

1つは割引率として一般的に用いられるのが、加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)という指標です。企業の資金調達の源泉として、株主からの資本調達と借入れ等の有利子負債による調達のそれぞれにかかるコストを企業の資本構成も加味しながら加重平均したもので、DCF方式の実務においては一般的に用いられている指標であるといえます。

そしてもう1つが、日本企業の場合に用いられるWACCの水準としては一般的には5%~10%程度が最も多くみられるケースであるということです。もちろん、これはあくまで目安であり、実際にはケースバイケースなのですが、仮に2~3%という異常に低い割引率を目にした場合には、なぜそのように低い水準となるのかを質問するようにした方がよいでしょう。割引率を低くすればするほど、事業価値は高めに算出されることになりますが、日本企業がWACCを使用する場合の割引率として2~3%というのは、一般的に言って異常に低すぎると考えられるためです。たしかにWACCの計算式に形式的に当てはめていった結果、そのような低水準になるケースもあるのですが、そういったケースの多くが、計算に使用するパラメーターの一部が異常値である等、適切なものではないケースが多いのです。細かい理屈をみなさんが知っておく必要はないので、詳細については割愛しますが、こういった相場感を知っておけば、何かおかしな評価になっているのではないかという感覚を持つことはできますので、ぜひ覚えておいてください。

⑤将来計画の見積期間とターミナル・バリュー

割引率が決まればいよいよ将来キャッシュ・フローの割引計算を行うことになるわけですが、最初にも説明したように、策定する将来事業計画はせいぜい3年分か5年分です。しかし、一方で事業活動は5年経過したからといってそこで終焉を迎えるわけではなく、順調にいけばその後も継続していくことになるわけであり、その意味からすればたった5年分のキャッシュ・フローだけで事業価値を評価するのはおかしな話です。

ここで登場するのがターミナル・バリューという概念です。ターミナル・バリューは日本語では永続価値と訳されることが多いように、策定した将来計画の最終年度以降も事業活動が永続することを前提として、そのことによる価値を見積もった将来計画の最終年度のキャッシュ・フローとして加算するのです。

ターミナル・バリューは、一般的には最終年度の単年度のキャッシュ・フローを割引率で割り戻すことによって算出されます。実はここが曲者なのです。たとえば、3年間のキャッシュ・フロー計画が0、200、500と順調に成長する計画があったとして割引率が10%であった場合を考えてみましょう。それぞれの年度のキャッシュ・フローの割引現在価値は、端数を丸めるとそれぞれ0、165、375となり、この時点で合計は540となります。しかし、最後に最終年度の単年度キャッシュ・フロー500を割引率10%で割り戻してターミナル・バリューを算出すると、500÷10%=5,000となり、これを3年間割り引くと、3,756となります。最終的には、先ほどの540とターミナル・バリューの現在価値3,756を合計した4,296が事業価値となるのですが、算定された事業価値のうち実に9割近くがターミナル・バリューによって占められているという結果になっています。

これは極端な事例ではありますが、計画の最終年度に向けて大きく右肩上がりとなっているような計画を用いる場合や、割引率が異常に低い場合などは、このターミナル・バリューが事業価値の大半を占めるという気持ちの悪い結果になってしまいがちです。もちろん、DCF方式による計算プロセスの特性として、ターミナル・バリューの影響はそれなりに大きなものとはなるのですが、あまりにも異常な割合となる場合には、評価額自体の妥当性にも疑問符が付きかねないので、こういった計算手法の特徴はよくよく理解しておく必要があるといえるでしょう。

⑥DCF方式の使用局面

ここまでの説明をお読みになった方は、DCF方式は非常に危うい評価手法であると感じているのではないかと思います。しかし、そんなに危うい評価手法であるにも関わらず、実際のところは、非常にメジャーな評価手法として、多くのM&Aにおいて用いられています。

これはDCF方式が極めて優れているというよりは、他に合理的な評価手法を見いだしにくいという消去法的な理由によるところが大きいと考えられます。すでに説明したように、マーケット・アプローチの手法であるマルチプル方式は、類似のビジネスを営む上場企業が複数選定できない場合には使用することが難しいですし、次節において説明する純資産方式などのコスト・アプローチはグループ内再編などのケースを除いて、継続企業を前提とした場合の評価にはあまり適しないため、最終的にはDCF方式が適切であるということになりやすいのです。

そういった理由で、様々なケースで用いられることの多いDCF方式ですが、もちろん使用するのが不適切なケースもあります。たとえば、対象事業が継続事業とは認められないようなケースにおいては、事業の継続を前提としたDCF方式による評価は不適切といえるでしょう。また、合理的な将来事業計画が存在しないという場合にも、DCF方式による評価は不適切となります。

いずれにしても、ここまでに説明してきたようなDCF方式の特徴とその危うさを十分に理解して、評価の内容を検討していくことがM&Aプロジェクトに関わる方には求められているといえるでしょう。

(2)収益還元方式

インカム・アプローチといえば、基本的にはDCF方式が用いられるのですが、まれに用いられる方法として収益還元方式という評価手法もあります。これは、単年度の予想税引後正常利益を資本還元率(WACCを使用することが多い。)で割り戻して事業価値を算出するという評価手法で、計算のイメージは、先ほど説明したターミナル・バリューの計算と同様です。

インカム・アプローチによって評価を行いたいが、DCF方式を採用するほどには、適切な事業計画を複数年にわたって入手することができないような場合に、現時点における正常収益力もしくは予想のしやすい単年度計画の数値を用いて、これを割り戻すことにより事業価値を算出してしまおうという評価手法です。

計算としては非常にシンプルであり、やや大ざっぱな面もあるため、最近では用いられる場面が少ないように感じますが、前節で説明したようにDCF方式で評価しても結局はターミナル・バリューが大半を占めてしまうようなケースのことを考えれば、複数年度の将来計画などという難しいことを考えずに、足下の収益力をしっかりと見定めた上で評価を行うという方針で、収益還元方式による評価にも一定の合理性は認められるのではないかと思います。

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