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偶発債務(未払労働債務、債務保証、係争事件等)

偶発債務は、財務デュー・デリジェンスにおいて非常に厄介なテーマのひとつです。偶発債務とは、現時点においてはまだ現実の債務となっていないものの、将来において潜在的に損失を被るリスクを内包したものを指します。現時点において現実の債務となっているわけではないため、貸借対照表に負債として計上されることはないのですが、だからといって将来の潜在的なリスクをはらんでいる以上、何もケアをしないわけにはいかないのです。

上場企業の場合には、こういった潜在的なリスクについては、貸借対照表本体には反映されていない事項として、財務諸表とは別に注記事項という形で情報開示されるため、それによって投資家は偶発債務の存在を知ることができます。

一方、財務デュー・デリジェンスにおいては、黙っていたのでは、そういった偶発債務の存在はわかりませんから、こちらから積極的に偶発債務がないかどうかについて調査を行う必要があるのです。もちろん、財務デュー・デリジェンスを実施しても発見されない偶発債務もあります。偶発債務がないかどうかの検証は意外と難しく、一般的には関係当事者への質問や取締役会議事録等の閲覧、その他関連資料の閲覧を通じて、その存在の有無に注意することになりますが、そのような資料に出ていないものや、質問対応者が適切に回答しなかった場合などは、偶発債務の存在を把握することは極めて困難であり、その点は認識しておく必要があります。

以下では、財務デュー・デリジェンスにおいて問題となりやすい典型的な論点を中心に説明していきます。

①未払労働債務

近年よく問題となる偶発債務のひとつに未払労働債務問題があります。もっと端的に言えば、未払残業代のことです。たとえば、管理職扱いということで残業代を支給していない場合であっても、実際には名ばかり管理職であって、管理職とはみなされない場合には、本来であれば適正に残業代を支給する必要があります。また、タイムカードに打刻されている労働時間と実際に給与の支給対象とされている時間が相違する場合なども、未払残業代が発生している可能性が高いといえます。

このような未払状態となっている労働債務については、仮に従業員から請求を受けた場合や、労働監督基準署の指導が入った場合など、思わぬ形で債務が顕在化し、損失が発生するというリスクを抱えています。

財務デュー・デリジェンスにおいては、このような未払労働債務について、仮に調査時点において具体的に支払可能性があるといった形でリスクが顕在化している場合には、負債として認識して純資産を修正することになります。しかし、そこまでには至らない段階であれば、一般的には、純資産の修正項目とはせずに、あくまでも将来の潜在的な損失発生リスクが存在している状態であるとして、報告書においては、偶発債務として注意喚起をするに留めることになります。

なお、未払労働債務の問題については、財務デュー・デリジェンスだけでなく、法務デュー・デリジェンスにおいても、コンプライアンスの観点から重要テーマとして取り扱われることになります。しかも、法務デュー・デリジェンスの方が、法的な内容も含めて事実関係についてはより詳細な調査となりますので、効果的かつ効率的な財務デュー・デリジェンスの実施という観点からは、この点についてはうまく法務デュー・デリジェンスとも連携をして情報共有するとともに、両者の報告書の内容が整合的になるように適切に調整をすることが必要となります。

ですので、みなさん買主サイドとしても、財務デュー・デリジェンスチームと法務デュー・デリジェンスチームがうまく連携することができるように積極的に関わっていくようにアレンジすることが望ましいのです。

②債務保証

債務保証もすぐには貸借対照表に反映されない偶発債務として注意が必要なテーマのひとつです。

他人または他社の債務を保証している場合、債務者が何の問題もなく約定どおりに債務の弁済ができれば、保証人である対象会社においてリスクが顕在化することはないのですが、債務者の財務状況が悪化して弁済が不可能となってしまった場合には、保証人が代わりに債務を弁済しなければなりません。そういった保証債務を履行した場合には、代わりにもともとの債務者に対して請求をする権利(求償債権)が生まれることとなりますが、もともとの債務者はすでに財務状況が悪化してしまっているため、通常そのような求償債権の回収は難しいと考えるのが自然です。求償債権の回収ができる状況であれば、そもそも債務保証のリスクが顕在化するような事態には陥っていないでしょう。

つまり、債務保証を行っていることそれ自体で、何らかの負債を認識しなければならないわけではありませんが、債務者の財務状況が悪化し、保証債務を履行する可能性が高まった場合には、そのような履行義務を負債として認識するとともに、保証人として最終的に被る損失も同時に認識しなければならないのです。

債務保証はこのような意味で、将来の潜在的な損失リスクを内包したものであるといえ、財務デュー・デリジェンスにおいても偶発債務としてケアしなければならないテーマと認識されるのです。

なお、債務保証には、明確な債務保証だけでなく、親会社としての監督責任を認めて子会社の経営指導を適切に行う等の内容を記したいわゆる経営指導念書の差し入れなどの実質的な債務保証も含めて考えるべきであるため、これについても対象会社がどの程度適切に情報開示をしてくれるかによって、どこまで網羅的に把握することができるかどうかも変わってくるという点を頭に入れておく必要があります。

③係争事件

訴訟などの係争事件も典型的な偶発債務のひとつです。偶発債務として気にしなければならないのは、訴えているケースではなく、訴えられているケースです。何らかの形で損害賠償責任を負わなければならないことが確定すれば、その分の損失を計上しなければなりません。ただ、実際には争いの行方がどのような形で落ち着くのかは予測困難ですから、結論が出るまでの間は、偶発債務という将来の潜在リスクという形で、貸借対照表の外で把握しておくことになります。

考えなければならないのは、すでに訴訟事件になっているものだけではなく、将来の潜在リスクを幅広く洗い出すという観点からは、訴訟に至る前段階の争いも含めてということになります。こういったテーマについても、未払労働債務と同様に、法務デュー・デリジェンスとの連携が非常に重要になってきます。法的な観点からの検討や見解については、法務デュー・デリジェンスの方が専門的であるのは当然ですから、法務デュー・デリジェンスチームと適切に連携をとって、財務デュー・デリジェンスにもその内容を反映させることがポイントです。

④その他(デリバティブ等)

その他として話題になりやすいテーマは、デリバティブ取引です。上場企業の場合には、デリバティブ取引は適切に時価評価を行い、貸借対照表に資産または負債を計上しているのですが、非上場企業の場合にはそうはいきません。デリバティブ取引を行っている、または保有している金融商品にデリバティブ取引が組み込まれている、そいうった形で将来の損失リスクを負っているにも関わらず、何ら財務諸表には反映されていないケースも多くありますので、そういったデリバティブがないかどうかは必ず確かめておく必要があります。

その他、致命的な問題となることは少ないですが、手形の裏書きや割引を行っている場合も少し注意が必要です。受け取った手形を、決済期日よりも前に資金化する目的で、手形を銀行に持ち込んで割り引くことがありますが、万が一手形が期日に決済されなかった場合には、割り引いた企業が銀行に対して弁済をしなければならないという遡及義務を負うのが一般的です。ですから、対象会社が手形の割引などを行っている場合には、そういった将来の潜在リスクが総額としてどの程度あるのかを、裏書き及び割引の一覧表などを入手して把握しておくにこしたことはありません。

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